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■【特集】オカモト株式会社 不可能に挑んだ男たち
こんな履歴書は嫌だぁ 写真が別人・・

2006.11.02

 戦後、高度経済成長期から今日までの日本。新幹線の敷設など幾多の画期的なプロジェクトが日の目を見た。しかし実はこの影で、成功を収めながらも注目を浴びなかった企画が存在する。それは、すべてがタブー視されていた「性」に関するものだ。特捜隊では、そうした知られざるプロジェクトに光を当てる。色眼鏡で見られながらも執念で成功を手にした男たちの、性なる日陰のドラマに──。

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◆プロジェクトseX-性功者たち-
 コンドーム。避妊やSTD(性感染症)への感染防止など利用価値が非常に高く、我々の生活に密着している必需品。その中に、伝説ともいえる驚異的な記録を残した大ヒット商品がある。オカモト株式会社(以下、オカモト)の「0.03(ゼロゼロスリー)」だ。その出荷個数は発売後3カ月目から18カ月間連続で1位。発売から半年で100万箱を出荷し、約9カ月で200万箱を突破するという驚異的なものだった。コンドームの歴史の中にその名を刻んだ同商品。しかしその開発と普及の影には、技術者や営業職たちの血がにじむような闘いの日々があった。これは、欧米諸国中心の世界企画採用にも負けず「薄さと強度の両立」という難題に挑み、8年目で成功を手にした男たちの、知られざる物語である──。
◆執念の0.03(ゼロゼロスリー)8年目の成功劇
 苦闘の始まりは、1996年。ISO(国際標準化機構、本部ジュネーブ)でのコンドームの世界規格の決定だ。薄さも安全品質もトップクラスだった日本基準は採用されなかった。薄さで世界中を席巻していた日本製品のバッシングともいえる強度基準の設定によりコンドームを厚くせざるを得ない基準が採択されたのだ。その前年には、日本国内の規格JIS(日本工業規格)もISOに合わせることが決まっている。つまり、逃げ道はない。各メーカーは、厳しい選択を迫られることとなった。厚くするか、固くするか。固くすれば、使用感は最悪だ。苦渋の末、各メーカーは一時的にせよ厚くする方向を選んだ。しかし、オカモトはそれを屈辱と感じた。
 ISOの強度基準を満たした、「薄くて丈夫で柔らかくて、使用感のないコンドームを目指す」。コンドームメーカーとして創業したオカモトの、伝統の精神を貫いた。そこには、壁が立ちはだかった。薄さと強度という相反する要素を両立させなければいけなかったのだ。この難題に挑戦したのは、オカモト茨城工場の技術者チーム。
 対馬恭吾、芹澤俊夫、佐々木常俊、玉田和久、池田佳司の5人を中心とするプロジェクトチームだ。中心となったのは対馬恭吾と池田佳司。開発チームが目指したのは、0・03lのコンドーム。0・03lというのは日焼けした時にむける皮膚やスギの花粉と同じ厚み。同社には、以前にも0・03lの商品は存在したが、それは根元の部分のみ0・03l台で、しかも先端と根元では厚さが違っていた。そして何より、それでは新規格の要件を満たさない。
 開発は、容易には進まなかった。一からのスタートで、薬品の種類や精製の温度や化学変化にかける時間などについて、すべての組み合わせを試した。しかし、すべてが失敗に終わる。しかも彼らには、こうした開発に専念できる環境があったわけではない。通常通りの業務を続けつつ、その上で営業と2週間に一度製品会議を重ねながら開発に携わっていたのだ。トライアンドエラーの日々は、開発チームを精神的にも追い詰めた。「夢にも出てきた」と苦笑する者や「お酒を飲まないと寝られない」者などもいた。苦労を続けた彼らはある時、試験機での生産に成功する。これですべてがうまくいく。誰しもがそう思った。しかし、壁は、次から次へと現れた。
 開発した製品を商品化するには、量産を行なえる体制を整えるのが必須条件だ。量産化に当たっては、不良品ができてしまう割合が一番の問題となる。つまり、量産化できてもその半分が不良品だったら、商売にならないのだ。試験機での生産には成功したが、量産化しようとすると規格水準が保てない。しかし彼らは、あきらめなかった。生産ラインを、すべて一新したのである。それも、すべての機械を自ら作った。彼らは手作りの新しい機械で、生産に挑んだ。気持ちの入れようも半端なものではなく、「いい物を作るために、自分たちの手で何度もガラス型を洗った」という。そしてついに、従来のものに比べ40〜60%ほどの薄さを確保しつつ、強度を保つ製品の生産に成功したのである。

◆薄さと強度の両立という難題を克服
 薄さと強度を両立させた究極のコンドームは、ついに完成した。しかし、それだけでは商品は普及しない。商品を知ってもらい一度でいいから使ってもらうにはどうすればいいのか。大きな壁は、まだまだ立ちはだかった。まず、ネーミング。「薄いことを知ってもらうにはどうすればいいのか」。肥田恵一郎マネージャーや斉藤慎也統括マネージャーら営業チームが議論を重ねる。「他社にもあるような『薄さ』を連想させるだけの言葉では実体が伝わらない」。ある時、話はまとまった。「数字にしよう」。結果、シンプルだが分かりやすい名前が付いた。「0・03(ゼロゼロスリー)」。

◆大ヒットに陰に驚きの宣伝戦略

 2003年に完成した「0・03(ゼロゼロスリー)」は、厚生労働省の許認可を受け、同年10月に一般に発表された。発売日は、同年11月11日。商品を知ってもらう上で、一番効率のいい方法はテレビCMを打つことだ。何千万人が視聴するゴールデンタイムに商品や商品名を頻繁に流す。しかし、オカモトにはそれができなかった。コンドームそのものを見せたり、セックスを連想させるようなコンドームCMは、ゴールデンタイムでは禁止されていたからだ。彼らは、通常の宣伝をあきらめざるを得なかった。しかしここで、営業企画責任者の斉藤慎也統括マネージャーが画期的なプロモーション方法をひねり出した。「お店に許可を得て、現行のオカモトの商品一つひとつに、「0・03(ゼロゼロスリー)の試供品を1個貼り付ける」。商品というのは、仕入れを済ませたらその店舗の持ち物。いくら自社製品といえども、これは「あなたの持ち物に新製品の試供品を貼らせてください」と言っているに等しかった。もちろん業界初の試み。誰もが驚いた。しかし、営業チームはキャラバン隊を組み、これに挑んだ。「もしもし、オカモト鰍ナすけれども、この度新製品を発売することになりまして、つきましてはお店の商品に1個1個試供品を貼らせていただけないかと……」。試みは、予想に反して大成功を収めた。店側は、面倒ではあったが「サービスになるからいい」と判断する所が大半だった。ユーザーは「オマケが付いている」と喜んで買っていった。このプロモーション、コンドームを買いに来たユーザーに対して行なわれたものだったこともあり、効果は絶大だった。「生でやっているみたい」。「彼氏の体温が感じられる」。評判はまたたく間に広まり、「0・03(ゼロゼロスリー)」は売れに売れた。通常、出荷個数が1位を獲得するのには時間がかかるものの、同商品はたったの2カ月で1位に踊り出る。そしてその後18カ月間トップを守り通した。こうして「0・03(ゼロゼロスリー)」は、コンドームの歴史にその名を刻む伝説の商品となったのである──。
 2006年、10月。伝説を作った男たちは、新たな夢に挑んでいる。「つけるだけで気持ち良くなるコンドームを作りたい」。「トイレに流せる水溶性のコンドームを作りたい」。不可能にしか思えない、壮大な夢。しかしそれを成し遂げてきた男たちだから、彼らはあきらめることを知らない。男たちの闘いは、今も終わらない。

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